保育園で生成AIを使うときは、園児名や保護者名だけでなく、園名、クラス、日時、健康・発達・家庭情報など、個人を特定できる情報を入力しないことが基本です。園のルールを確認し、個人を特定できる情報を削除して、文章作成に必要な一般的情報だけに整理し、出力は必ず保育士が確認します。
連絡帳の作成にAIを使ってみたいけれど、「園児の名前や様子をどこまで書いていいのか分からない」と感じている保育士は少なくありません。この記事では、法律の専門用語をできるだけ使わずに、保育の現場ですぐに実践できる「入力してよい情報」「入力してはいけない情報」の判断基準と、匿名化の具体例、NG・OKプロンプト例を紹介します。
「AIは危険だから使わない」でも「設定さえ変えれば何でも入力してよい」でもなく、園内確認、入力制限、情報の最小化、最終確認という4つの基準で判断できるようになることが、この記事のゴールです。
保育園でAIを使う前に守りたい4つの基本ルール
まず、記事全体の結論を先に示します。生成AIを保育業務で使うときは、次の4つを守ります。 原則行動 園内確認園長・主任・情報管理担当者に確認する 入力制限個人を特定できる情報を入れない 最小化下書きに必要な情報だけを入力する 人が確認出力をそのまま使わない

忙しい連絡帳作成の時間帯は、目の前で見た具体的なエピソードをそのまま入力したくなりやすいものです。しかし、名前を消しただけでは、クラス、行事、けが、家庭状況などの組み合わせから個人が分かってしまう場合があります。
この4つを守れば絶対に事故が起きないわけではありません。あくまで、リスクを減らしながら安全側でAIを活用するための行動基準です。
保育士がAIに入力してはいけない情報
「個人情報=名前だけ」ではありません。園児の名前を消しても、他の情報の組み合わせによって本人を特定できる場合があります。
入力を避けたい情報は、大きく4つに分類できます。 分類具体例 直接識別情報氏名、住所、電話番号、顔写真、メールアドレス 健康・発達情報病名、アレルギー、服薬、障害、発達相談内容 家庭情報家庭事情、保護者の勤務先、離婚、経済状況、面談内容 間接識別情報園名、クラス、日時、珍しい出来事、地域、きょうだい情報

連絡帳や児童票、保護者面談の記録には、名前以外にも多くの情報が含まれています。たとえば「7月15日の夏祭り練習で、さくら組の子が転んだ」という一文だけでも、園名・クラス・日時・出来事が揃うことで、周囲の人には誰のことか推測できてしまうことがあります。
なお、法律上の個人情報に厳密に該当するかどうかの判定と、園内で安全のために入力を避けたい情報は、必ずしも同じではありません。この記事では法的な断定ではなく、現場で実践しやすい安全側の基準を示しています。
個人情報保護委員会は、生成AIサービスへ個人情報を含むプロンプトを入力する場合、利用目的の範囲内であるか、入力した情報が学習等に利用されないかなどを、事前にサービスの利用規約等で確認するよう注意を呼びかけています(個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」)。この記事の基準も、この考え方に沿っています。
連絡帳や指導案で使える匿名化・置き換え例
この記事でいう匿名化・置き換えとは、名前を仮名に変えるだけではありません。園名、クラス、日時、地域など、本人の特定につながる情報を削除したうえで、文章作成に必要な一般的な情報だけに整理することを指します。「園児A」に置き換えるだけで匿名化が完了するわけではない、という点がまず大切です。
置き換えが使えるのは、名前や日時、場所など「一般化しても文章の意味が変わらない情報」に限られます。健康・発達・家庭に関する情報は、抽象化しても関係者には推測できてしまうことが多いため、置き換えではなく、そもそも入力しないことを基本にしてください。
A.一般化して使える情報 入力前の情報置き換え後 さくら組の田中○○くん3歳児 7月15日の夏祭り練習で行事の練習中に ○○保育園の園庭で園庭遊びで
B.言い換えず、原則としてAIへ入力しない情報 入力前の情報AIへ入力するときの対応 卵アレルギーなどの健康情報原則として入力しない。文章作成に必要な一般的行動だけを残す 離婚などの家庭事情入力しない 発達相談・支援機関の利用情報入力しない

健康・発達・家庭情報は、一般化して入力するのではなく、原則として削除してください。「食事に配慮が必要」のような言い換えであっても、園やクラスの状況によっては誰のことか推測できてしまう可能性があります。
AIへ渡す情報を、次のような固定項目に整理しておくと、個人情報を含めずに下書きを作成しやすくなります。年齢: 場面: 子どもの一般的な行動: 保育士の関わり: 保護者へ伝えたい内容: 文章の雰囲気: 個人名、園名、地域名、日時は含めないでください。 健康・発達・家庭情報は含めないでください。 文章作成には、個人を特定できない一般的な行動だけを 使用してください。
情報を減らしても、年齢・場面・行動・声かけさえ明確にすれば、下書きの質は保ちやすくなります。「園児A」「Aちゃん」のように書き換えただけでは、本文中の他の情報から特定できてしまう場合がある点にも注意してください。
連絡帳では、子どもの姿を具体的に伝えようとするほど、名前や出来事以外の固有情報も一緒に入りやすくなります。書き終えたら、一度読み返して「誰のことか分かる情報が残っていないか」を確認する習慣をつけておくと安心です。
安全に使うためのNG・OKプロンプト例
実際のプロンプトを見比べることで、どこを直せばよいかが分かりやすくなります。AIへ入力する情報は、文章作成に必要な「年齢・場面・行動・保育士の援助・伝えたい印象」に限定します。
例1:食事の場面
NGひまわり組の田中○○ちゃんは卵アレルギーがあります。 今日の給食では……
OK3歳児の連絡帳文を作成してください。 給食で苦手な食材に自分から手を伸ばしたこと、 保育士が見守りながら声をかけたことを、 保護者へ温かく伝える文章にしてください。
例2:友達とのトラブル
NG○○保育園の5歳児、山田○○くんが、 7月17日の午後に△△くんを押しました。
OK5歳児の連絡帳文を作成してください。 遊びの中で友達との思いが合わない場面がありましたが、 保育士が気持ちを言葉にする援助をしたことで、 最後は一緒に遊び直せたことを伝えてください。

トラブルやけがの記録は事実確認が重要です。AIが推測で表現を加えると、保護者との認識にずれが生じることがあります。「優しく書いて」とだけ指示すると、AIが事実にない感情や成長ぶりを加えてしまうこともあるため、指示は具体的にしておきましょう。
たとえば、次のような違いが出ることがあります。
- 観察した事実:友達との思いが合わない場面があったが、保育士が仲立ちすると、再び一緒に遊び始めた
- AIが加える可能性がある表現:自分の気持ちを整理し、相手を思いやる成長が見られました

「気持ちを整理した」「思いやる成長」は、実際にその場で確認できた事実とは限りません。保育士自身が観察していない内面や成長を言い切っている場合は、その部分を削除するか、確認できた行動だけの表現に直してください。
なお、OK例であっても、園内の利用ルールで生成AIの利用が認められていることが前提です。
写真や音声をAIへ読み込ませる前に確認すること
顔を隠せば写真をアップロードしてよいわけではありません。写真や音声には、顔以外にもさまざまな情報が含まれています。
- 子どもの顔
- 名札
- ロッカーの名前
- 壁面や掲示物
- 園名が入った服や看板
- 位置が分かる建物
- 他児や保護者の声
- 名前を呼ぶ声
- 家庭状況を含む会話
- 撮影日時・位置情報などのメタデータ

保育室の写真には、ロッカー名や作品名、連絡ボードなどが映り込みやすいものです。写真を撮るときは、まず子どもの顔や表情に目がいきがちですが、実際に見直してみると、背景の名札や掲示物のほうが先に個人情報として残ってしまっていることも少なくありません。写真ファイルには撮影情報が含まれる場合があり、扱い方はサービスや保存・加工方法によって異なるため、「必ずAIへ送信される」と一律に考えるのではなく、アップロード前の確認項目として意識しておく必要があります。
原則として、園の明確な許可がない限り、個人の判断で子どもの写真や音声をAIへアップロードすることは避けてください。
個人向けAIと組織向けAIは何が違う?
「無料版は危険、法人向けなら安全」という単純な二分法では判断できません。
OpenAIは、ChatGPT BusinessやEnterpriseなどの組織向けサービスについて、入力・出力を含む組織データを既定ではモデル改善に使用しないと説明しています(OpenAI「Enterprise privacy at OpenAI」)。一方で、個人向けのChatGPTにもデータ利用を制御する設定があるため(OpenAI Help Center「Data Usage for Consumer Services FAQ」)、「無料版は必ず学習に使われる」と断定することはできません。 比較項目個人向けAI組織向けAI 主な利用者個人園・法人・組織 モデル改善への利用サービスと設定を確認既定で利用しないサービスがある 管理者機能限定的アカウント・権限管理が可能な場合がある 契約・管理個人で管理組織単位で管理 利用ルール個人判断になりやすい組織ルールを設定しやすい 個人情報の入力原則避ける契約・法令・園内ルールを確認し、必要最小限にする 選定ポイント設定と規約学習利用、保存、権限、ログ、契約、サポート
料金プランは変更されやすいため、この記事では固定の価格情報は掲載していません。最新の料金は各サービスの公式ページで確認してください。
重要なのは、組織向けAIで学習に使われない設定になっていたとしても、それが「個人情報を自由に入力してよい」という意味ではないという点です。利用目的、保存期間、アクセス権、契約条件、園内ルールを合わせて確認する必要があります。
AIで作った連絡帳や指導案を使う前の確認項目
AIの出力はあくまで下書きです。事実確認、個人情報の再確認、表現の確認を、保育士自身が行ってから使用します。
入力前
- 園でAI利用が認められている
- 園児名、保護者名、園名を削除した
- 健康・発達・家庭情報を入力していない
- 日時や場所を必要以上に具体化していない
- 写真や音声を添付していない
- 文章作成に必要な情報だけに絞った
出力後
- 事実と異なる内容がない
- AIが感情や理由を推測していない
- 子どもを否定的に決めつけていない
- 保護者が誤解する表現がない
- 園の方針や言葉遣いと合っている
- 個人を特定できる情報が再び入っていない
- 保育士自身の観察と一言を加えた
- そのまま送信せず、読み直した

保護者へ伝える文章では、正しさだけでなく「実際にその子を見ていたことが伝わる一言」が必要です。AIが作った文章を読み返すと、言葉づかいは整っていても、その日その子が実際にどんな表情で、どんなやり取りをしたのかまでは反映されていないことに気づきます。最後は、保育士自身が見ていた場面の一言を添えて仕上げることが欠かせません。
保育園で安全にAIを使うための進め方
個人の注意だけに頼らず、園として安全に始める手順を持つことが大切です。最初から幅広い業務で使うのではなく、個人情報を含まない文章の言い換えやアイデア出しなど、小さな範囲から始めましょう。
こども家庭庁は2025年に、自治体や保育施設などを対象とした「生成AIの導入・活用に向けた実践ハンドブック(PDF)」を公開しています。また、令和7年度の「保育ICT導入・活用実践事例集(PDF)」(保育ICTラボ事業)でも、生成AIの利用を始める前に関係部署と協議し、運用ルールを定めることの重要性が示されています。
園内導入の5ステップ
- 利用目的を決める
- 使用サービスを確認する
- 入力禁止情報を決める
- 小さな業務で試す
- 結果を確認してルールを更新する
安全な使い方を確認できたら、次は年齢別のプロンプト例も参考にしてください。子どもの名前や園名を入れず、観察した行動と保育士の関わりだけで下書きを作れる形にしています。
保育士のAI利用と個人情報に関するよくある質問
園児の名前を仮名に変えれば入力してもよいですか?
名前だけでなく、園名、クラス、日時、珍しい出来事などから特定できる場合があります。仮名への変更だけでなく、不要な情報の削除と一般化が必要です。
ChatGPTの学習をオフにすれば園児名を入力してもよいですか?
学習への利用を停止する設定と、個人情報を入力してよいかどうかは別の問題です。園のルール、利用目的、契約条件を確認したうえで、個人を特定できる情報は入力しない運用を基本にしてください。
組織向けAIなら個人情報を入力しても安全ですか?
組織向けAIには学習への不使用や管理機能が用意される場合がありますが、入力の必要性、契約、保存、アクセス権、園内ルールなどの確認が必要です。安全を保証するものではありません。
写真にモザイクをかければAIへアップロードできますか?
顔以外にも名札、背景、掲示物、園名、撮影情報などが含まれる可能性があります。園の明確な許可がない限り、個人の判断で子どもの写真をアップロードすることは避けてください。
AIで作った文章をそのまま連絡帳へ使えますか?
そのまま使うことは避けてください。AIは事実にない内容や、子どもの気持ちを推測した表現を加える場合があるため、保育士が事実確認と修正を行ってから使用します。
園にAIのルールがない場合はどうすればよいですか?
個人の判断で園児情報を入力せず、園長や主任に確認してください。まずは、個人情報を含まない文章の言い換えや一般的なアイデア出しから検討するとよいでしょう。
正しいルールを理解して安全にAIを活用しよう
最後に、この記事の結論をまとめます。
- 園のルールを確認する
- 個人を特定できる情報を入力しない
- 個人を特定できる情報を削除し、必要な一般的情報だけに整理する
- 写真や音声を安易にアップロードしない
- AIの文章を保育士が確認・修正する
何を入れないか、どのように情報を減らすか、誰が最後に確認するかを決めれば、AIを下書き作成の補助として検討していけます。次は、年齢別の連絡帳AIプロンプト集も参考にしてください。
参考資料 発行元資料名公開年URL 個人情報保護委員会 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について 2023年6月 リンク こども家庭庁 生成AIの導入・活用に向けた実践ハンドブック 本編(PDF) 2025年 リンク こども家庭庁(保育ICTラボ事業) 保育ICT導入・活用実践事例集(令和7年度)(PDF) 2026年 リンク OpenAI Help Center Data Usage for Consumer Services FAQ 確認日時点で最新版を参照 リンク OpenAI Enterprise privacy at OpenAI 確認日時点で最新版を参照 リンク
最終確認日:2026年7月18日
※資料の正式名称は公開元サイトの表記に合わせています。「保育ICT導入・活用実践事例集」は、こども家庭庁の保育ICTラボ事業の成果物としての名称です。AIサービスの仕様や料金プラン、関係省庁の資料は変更される可能性があるため、公開直前に最新情報を各公式ページで再確認してください。

